日本の特殊な状況がもたらすCBD製品のコンプライアンス問題

特集

最近VAPEリキッド用のCBD製品の人気が高まっています。以前よりも店頭でたくさんの製品を見かける機会が増えてきました。当店では現時点でまだCBD製品を扱っておりませんが、実はいくつかの問題に直面して導入を踏みとどまらざるを得なかった経緯があります。その中の一つでもあるコンプライアンス問題について取り上げたいと思います。

CBD製品には現在専用の法律が存在しません。大麻取締法という茎と種以外の使用を認めないとする古い法律がベースなっているだけです。この法律の制定趣旨は高揚感が得られる成分THCが、主に花や葉などの空中部位において高濃度に含まれることが知られている事実によります。茎は伝統的な衣類などの繊維用として利用され、日本でも繊維用として麻の栽培が認められている地域があります。伐採する際に麻酔いと呼ばれる少しクラっとする現象もあるそうで、THCは空中部位よりはかなり低い割合ですが実際には茎にも微量含まれることが一般的に知られています。種は主に食用オイルとして利用され、こちらについてはTHCは含まれていないとされています。海外では0.3%や0.2%といったTHCの上限基準によってCBDは規制されていますが、日本では部位によって規制されるという世界基準からすれば特殊なあり方になっています。

やがて抽出技術の進歩と品種の改良により、高いCBD濃度を得られながらもTHCを完全に除去する生産手法が確立されるようになります。日本で販売されているのは海外のこれらの技術革新の賜物です。日本の店頭では国産を謳うCBD製品を見かけることがありますが、CBDの原料は全て海外製です。日本で麻の栽培が認められているのは一部の繊維用の業者のみで、日本にはCBDの抽出設備も最適な麻の品種もありません。CBDの原料は結晶化されたものやオイルになります。VAPE用CBDは原料をPG/VGなどに溶かして作られます。これらの製品の最終工程が行われている国が日本であるために原産国表示上では日本ということになります。ですのでCBDの原料自体は全て海外製であるという認識を持っておく必要があります。

先日、日本のCBD業界を牽引してきたエリクシノールジャパンが突然全商品の販売一時停止を発表しました。オーストラリアの本社が日本向けの商品に茎と種からの抽出に関するコンプライアンス違反があったためと説明しています。11月30日現在においても調査が進められている最中で詳細は明らかになっておりません。CBDは先に述べた通り、麻の花や葉などの空中部位で多く抽出できる成分です。茎のみから抽出するとなると、空中部位からの抽出と比べて、大量の茎を使用する必要があります。現時点では推測に過ぎませんが、茎以外の部位から抽出されていた可能性が高いように思われます。メーカーからすれば部位を指定している日本の法律は特殊です。当該製品のTHCは完全に除去されており成分自体には問題がありません。抽出部位の差によるCBD成分に優劣の差はありません。どこから採ったとしてもCBDはCBDです。また最終製品を検証してCBDの抽出部位を推定することは技術的に不可能とされています。常に生産効率を追うグローバルメーカーにとって、コンプライアンスを遵守しないインセンティブが働いてしまったとしても不思議ではありません。

一方で茎からのみの抽出にはケースによっては品質問題を引き起こす可能性もあります。麻は土壌の汚染物質をよく吸収する性質を持つことで知られています。チェルノブイリ原発の周辺には土壌中の放射線物質を除去するため大量の麻が植えられたという例もあります。そのため麻の栽培には農薬で汚染されていないクリーンな土壌が求められます。カドミウムなど重金属類などが含まれていないことを証明するのがメーカーにとって非常に重要な責務です。メーカーによってオーガニック製と非オーガニック製と製品群を明確に分け、価格も倍以上差をつけているところもあります。

先に米国で大きな社会問題となった電子たばこ及びVapingの肺疾患問題(EVALI)では、ビタミンEアセテートの他にミクロブタニルも原因物質として疑われる症例も一部確認されています。農薬/殺菌剤の一種であるミクロブタニルは、燃焼すると非常に毒性の高い致命的な「シアン化水素」に変換される大変危険な物質です。仮に農薬で汚染された麻を用いて通常の何倍もの量を使ってCBD成分が濃縮抽出された場合、農薬も濃縮抽出され大変危険な製品になってしまう可能性があります。本来人的影響度を考慮すれば、まずは重金属などの汚染物質が完全に除去されることが最優先とされなければなりません。

THCについても海外や医療大麻業界と現在の日本の制度とでは認識に大きな差があるように見受けられます。日本は現状完全な0.00%未満でなければなりません。大麻取締法以外に明確な基準がないのが実情ですが、現在CBD製品が海外から輸入される際に、税関と連携して厚生労働省が必要書類としてTHCが検出されないことを示すテストレポートと抽出部位の証明写真などを求めています。これらは大麻取締法に基づいた厚生労働省の運用解釈に委ねられており、基準も以前とは少しずつ変わってきているようです。以前は海外と同じようにTHCが0.3%未満であれば輸入できてしまったり、抽出部位の写真が現在のように求められることもなかったようです。海外では0.3%や0.2%未満であればTHCを認める国が多いのですが、これは日本のようにTHCを完全な悪として完全除去する考えとは明らかに一線を画していることも一因です。医療大麻業界ではCBDだけでなくTHCも含んだ方が良いという考えが主流で、さらにテルペンなど多様な成分を含むフルスペクトラムがより効果的とされています。高揚成分を持つTHCを麻薬への入り口として完全悪とする日本と、微量であれば特に問題はなく効果的でさえあるとする海外や医療大麻業界とでは根本的な考え方の違いがあります。麻薬への厳罰な取り締まりで知られる中国でもTHC基準は0.3%未満です。

日本では市販されているCBD製品について無作為にCBDとTHC含有量を調べるランダムサンプリングが民間主導などで実施されることがあるようです。これらの市販品調査で問題視されるのが、THC含有量が規定通りに0.00%にはならずにそれ以上の値で検出されてしまうケースです。日本では部位による規制の大麻取締法以外に明確なTHC含有量の法律基準があるわけでもなく、また厚生労働省の内部基準も以前と変わっている可能性もあることから、現実的にTHCが0.00%以上の製品が流通している可能性はそれなりにあると思われます。

海外メーカーからすれば、THCが検出未満の完全フリーよりは重金属類の完全フリーが重要であることは、グローバルの基準上当然の認識になります。少しでもコストを抑えた良質なオーガニックのフルスペクトラムCBDを届けてもらうことが、日本を除く世界の国々の消費者がメーカーに望んでいることでもあります。茎抽出とTHC完全フリーの保証は、日本特有の事情といえます。日本のコンプライアンスに遵守していなかったとするエリクシノールの発表の背景には、元々遵守するインセンティブが働きづらい事情があったことは容易に想像できます。また、ランダムサンプリング調査でTHCが0.00%以上と判定されたメーカーについても同様です。元々彼らにとってはそれがグローバル基準です。

一方、海外メーカーの視点から見ればテストレポート内容や茎抽出を保証する証明書自体を偽造してしまえば、容易に日本市場に進出できる状況とも言えます。製造工程を日本用に専門にアレンジすることなくただ書類だけを偽造してしまえば良いとする考え方です。実際に当店が問い合わせた海外のCBDメーカーはこれまで30社以上に上りますが、殆どのメーカーからはCBDは空中部位からの抽出であることを正直に伝えられ、日本用に専用の製造工程を用意はしてくれませんでした。中には上述のような眉を潜めるような提案を受けるところもありましたが当然お断りしています。また、少量であれば税関で開封される可能性も低いため、輸入業者によっては申請書類を提出することなく意図的に通関させてしまう事例もあるようです。

CBD産業はまだ新しく、過去に大掛かりな詐欺事件があったりするなどクリーンな産業と言うには程遠い状況です。コンプライアンスの遵守はリーディングカンパニーであればあるほど業界全体の透明性を高めるためにも大変重要です。
今回の件がCBDの透明性向上に役立ち、国や消費者にとって真に有益な製品に発展する契機となることを願ってやみません。

 

追記(2019年12月3日)

12月2日付けで新たな発表がありました。エリクシノールグローバル本社は日本の連結子会社化を解消、現代表以外の方に過半数の株を売却するというものです。エリクシノールジャパンとは2020年3月までに互いに重大な違反がなければエリクシノールブランドのライセンス契約を締結する予定とのことです。先の発表にあった茎と種からの抽出に関わるコンプライアンス問題には一切触れていません。

この発表を受けてエリクシノールジャパンも案内をウェブサイトに掲載。上記の件及びこの発表をもって調査が完了となる旨の説明が本社からあったことが記されています。

このグローバル本社の対応はちょっと酷いように思います。一方的にコンプライアンスに問題があったと発表しておきながら、子会社を売却したのでもう説明責任はありませんと言ってるようなものです。日本の消費者に向けたアナウンスは何もありませんし、何より日本の法令に対して遵守していたのかどうかに答えていません。事業の公平性に関わる問題でもあるので、その点は明確にしていただきたいと思います。

この本社の対応ですと2020年3月までにライセンス契約を結んで事業を継続するというのも、真に受けてよいのか疑問に感じます。日本の代表者と子会社に対する本社の仕打ちがあまりに酷いように見えるからです。重大な違反が既にあるとしているのに、今後無ければ契約するというのもおかしな話です。

エリクシノール社製のCBD製品は、THCの含有量が0.00%未満であることが様々なテストで示されています。個人的にも安心感を持って使用させていただいています。しかし今回の本社の発表にはいち消費者としてもどうしても納得がいきません。日本を丸ごと無視されたような感覚です。内情は当然詳しく知る由も無いですが、少なくとも本社から日本の消費者に対して何らかのアナウンスがあって然るべきだったと思います。内部の株式のことは日本の消費者には関係のないことです。

業界の透明性が高まる契機になるかもしれないと期待していただけに、関連会社から外すことで無理やり幕引きをしようとしている本社の姿勢は、大変残念で怒りさえ感じます。

タイトルとURLをコピーしました